それでは私は見られていたのだ!
私はひとりではなかった!
ジェラール・ド・ネルヴァル
『オーレリア』
田舎に住んでいた子どもの頃
うちのまわりは田んぼだったので
稲の伸びている時期
風のつよい夜など
さわさわ
ざわざわ
ぞわぞわ
ぞうぞう
なびいた稲は鳴りつづけ
こんな時にはきっと
妖怪やふしぎな人たちが徘徊し
うちの前の道だって
行ったり来たりしているはずだと
カーテンのすき間から
うかがい続けた
おそく帰る人たちが
ときどき通っていった
あんなふうに
普通の人に見えるけれど
あれはほんとうはドラキュラ
あれはほんとうは狼男
あれはほんとうは
いま墓場から出てきたばかり
そんなふうに思って
彼らがもしこちらを見たらと
びくびくしながら
すぐにカーテンを閉められるように
ぴりぴり神経を澄ましながら
しばらく見続けていた
そんな頃が懐かしい
…のではない
そんな頃のじぶんが
かわいらしい
ちょっと大げさだけど
いとおしい
きみの未来が
このぼく
こんなぼくで
こんなでしかなくて
もうしわけないとも思う
けれど
きみをずっと見ている
見守っている
ひとりでいるときも
いつもだれかに
見られているようだったろう?
あれはぼく
大宇宙のなかで
ひとり
ぼくだけは
きみを見続けている
だからきみは
ひとりではないよ
いつまでも
ぼくのほうは
ひとりぼっちなのだと
しても
でも
それはちがう
ぼくだって
見続けられている
未来のぼくから
どんなに
未来が残り少ないとしても
すくなくとも
数秒先
一秒先ほどの
ぼくから
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