2019年6月7日金曜日

なににむかってなおも


  
遠いところから来ていたひとが
まだ刈取りもすべては終えていないのに
そろそろ発つ頃あい

たぶんわたしが眠っているうちに行ってしまうのだろう
いつものように
ほんのひとかけら
あの特別なお菓子をテーブルに残して
ひょっとしたら
そのひとが摘んだ草々をあわせて拵えたお茶も
ごく少量
耐熱ガラスのポットに残して

目覚めて
そのひとの気配が失せているのに気づくと
どうしようもないのに
わたしは家の前の草原に出て
何歩か踏み出して見まわし
そのひとを探してみる
ずいぶんはやくに出発してしまったのだろうから
姿はどこにも見当たらないのだが
こんな時の朝の空気が
わたしにはまるで
よみがえりのしるしででもあるかのように嬉しい

なににむかって
なおも
よみがえりなどあり得るというのだろう?

そう思った時もあったが
なににもむかわない
なんのためでもないよみがえりこそよみがえりではないか!
いまはもうすこし理解が進んでいる

そうして
だとすれば
すべてはこのようでよかったということではないか?
などと
運命について
ずいぶん性急な暗算をしてしまったりもする




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