2019年12月28日土曜日

しかたなくひとり



空よそらよわたしはじまる沸点に達するまでの淡い逡巡
東直子


群れているひとたちを
そのまゝ
群れるがまゝにさせておきながら
とりたてて“ひとり”などと力も入れずに
しかたなくひとり
歩いていく
ときには走っていく
泳いでいく
止まったりもする

むずかしくもないが
簡単でもなく

だって
群れているひとって
街や村やグループにあわせたり
時代にあわせたり
風潮にあわせたり
国や国語の要請に容易にあわせて
妖精であることを忘れてしまったり
するひとたちの
ことだから

ことさらに“自由”だなんて
主張するのも
馬鹿らしすぎて
たゞ
するすると障害物はすり抜けていく
脇を通り抜けたり
逸れていく
誰にも許可も取らずに
物語ることもせずに
もちろん歌わず
メモさえせず
記憶さえ
ときにはせずに

それだけのことでいいのに
旗を立てたり
また群れなんか作ったり
徒党を組んだり
歯をむき出して批判なんかしたりして
けっきょくは
群れに帰っていくひとたち

そんな
群れているひとたちを
そのまゝ
群れるがまゝにさせておきながら
とりたてて“ひとり”などと力も入れずに
しかたなくひとり
歩いていく
ときには走っていく
泳いでいく
止まったりもする

しかたなくひとり

しかたなく
ひとり




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