2020年1月19日日曜日

ムサムサムサムサ


  
能書家で
万葉調の歌人だった平賀元義のことは
ほとんど知らないが
ヘンなところのあった人らしく
女好きで
それをほのめかす歌の中でよく「吾妹子」と使ったので
正岡子規など『墨汁一滴』で
「元義の歌には妹または吾妹子の語を用ゐる極めて多し。故に吾妹子先生の諢名を負へりとぞ」と書いてさえいる
どおりで

天保一二年八月十五日夜作
五番町石橋の上にわが魔羅をたぐさにとりし吾妹子あはれ

などという歌も
あったりするわけだ
ずいぶん露骨な歌だが
着物を着ているのがふつうの時代ならば
造作ないことでもあっただろう
八月の石橋の上で
さぞや
しとどに
たがいの汗に濡れてもいたことであろう

ともあれ明治以降
こういう歌を捨象してしまって
きりきりと悲壮感へと突撃したがるような
ピューリタンというか
ヴィーガンというか
必須栄養素の欠如した近代短歌になっていったところに
歌の貧困はあり
歌の不幸はあった

「たぐさにとりし」という語感が
ちょっとわからないのだが
歌ったり踊ったりする時に手に持つものを「たぐさ」というとか
田に生える雑草を「たぐさ」というとか
陰暦五月を「たぐさ月」というとか
そんなことを思い添えると
なんだか
ムサムサムサムサと
わかってくるような気もする

誤解して
しまっているかもしれないが
誤解していてもかまうまいという気が
ムサムサムサムサと
してくる




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