子どもを持っていない人間と子どもを持っている人間

 

子どもを持っている人間が思い到らないらしいことに

子どもを持っている人間は究極の趣味に生きているとしか

子どもを持っていない人間が思っていないということがある

 

子どもを持つなんてなんとも酔狂な趣味

自分でない他人の命と宿命を手玉に取っての趣味

しかし他人の趣味に口を出すなど無粋だから

なにも言わないでおくが……

と子どもを持っていない人間は思う

 

子どもを持っていない人間のほうが魅力的な人は多いので

子どもを生産する行為にははるかに秀でているし

はるかに回数も行為対象も多かったはずだが

子どもを持たないで来たのは

子どもという他人を老後の介護係にしたくないという節度があったからで

子どもを持たないで来れたのは

安易に中出しするような行為下手ではなかったからでもある

 

ダメなやつはすぐに中出しする

すぐに浅薄な夢を見る

子どもを持つとあかるい未来が開けるかのようにキラキラな想像をしがち

ダメなやつは……と

子どもを持っていない人間は若い頃から認識してきている

 

子どもを持っていない人間は子どもを持っている人間が

夫婦と子どもとでいっしょにいる時に

夫婦がその子どもを作った瞬間のあられもない交わりのさまを想像する

あのおやじがあのおばさんとあられもない裸体でウンヌンと

想像し続けてアラハズカシアラハズカシと倦むことがない

子どもを持っている人間は受胎を引き起こした交わりのイメージを

どこにいても老いていく身に引き摺り続けて生きていく

あのおやじがねえあのじいさんがねえあのばあさんがねえあのあの……

 

子どもを持っていない人間はせめてはそんなイメージだけは引き摺らずに

巷の雑踏のなかを風のように通り過ぎていける軽さを持ち続けられる

べつに子どもづくりのあの夜の煎餅布団や豪華ベッドやあるいは

池田満寿夫が書いていたようにべったり畳に汗の後を残しながらの

交合の映像を帯びながらの幸せ家族像を纏いながらでもいいとは思うが

子どもを持っている人間と子どもを持っていない人間とのあいだには

紛争状態にある民族や国民や種族や部族よりも深すぎる溝がある

子どもを持っていない人間は子どもを持っている人間のことは

かりに同じ家族の中にあってさえ全く人間と認めてなどいないのだから