なにかのおり
そういえば
子供の頃にはじめて持った刀は
金属板を曲げたすきまにゴムを挟ませたもので
ひとに斬りかかっても
あまり痛くない作り方のものだったと
鮮烈に思い出した
幼稚園の時のことで
しかも
なにかの発表会のようなおりに
園児数人で
白虎隊の演舞をしたが
そのために使った小道具だった
幼稚園児ながらも
ゴムを挟ませた仕様は
なかなかよく考えてある
と思ったけれど
同時に本当には切れない
ウソの刀なんて持つ
わびしさも感じた
切れなくてもいいから
せめて硬い鉄製がいいなあ
などと思った
いま思い出すと
幼稚園児に白虎隊!?
と驚いてしまう
♪戦雲暗く 陽は落ちて
弧城に月の影悲し
誰が吹く笛か 識らねども
今宵名残の 白虎隊
紅顔可憐の 少年が
死をもて守る この保塞
滝沢村の 血の雨に
濡らす白刃も 白虎隊
いろいろな歌手が
むかしはこれを歌っていて
霧島昇だの美空ひばりだの
藤山一郎だのの歌唱は
いまでもYouTubeで
すぐに出てくる
だれのレコードで踊らされたのか
もうわからないが
少年剣士たちが
昔むかし勇敢に戦って
そうして死んでいった
というぐらいのことしかわからず
歌にのせられた剣舞をし
動作を遅れないようにとか
ちゃんと刀を抜けるようにとか
刀を他の子に当てないようにとか
そんなことばかりに気をとられつつ
ともかくもやりおおせた
いま記憶の中に煌めくのは
刀がしばらく自分の部屋にあって
ときどき取り出しては振りまわし
そうこうするうちに
薄い金属板なものだから
ぶつけたおりに途中で曲がってしまい
それを直すとまたヘンに曲がり
またそうこうするうちに
まっすぐに直しようがなくなって
ついに捨ててしまったことだが
あの刀が自分の部屋にあり続けて
ついに捨てられてしまうまでの
刀への思いだとか変化の総体だとかが
ひとつのまとまりとなって
しっかりと記憶の中に格納されているのが
幼稚園児の記憶だというのに
なかなかたいしたものじゃないかと
感心させられてならない
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