親しくつきあった芥川龍之介について
小島政二郎が書いている
語学力と速読力が
やはり
ただ事ではない
「一体どのくらいの速度で読めるのかと聞いてみたところ、
彼が英書を読み耽る時の特徴は、
「あれで実際本当に読んでいるのだろうか」
との疑念を生じ、
(‥)芥川さんが私に「ジャン・クリストフ」の話をされた時、
これは
『鴎外荷風万太郎』*
の中の一節
神田神保町での古書まつりを
冷やかし気分で
ふらふら歩いて見ていて
スーッと指を引かれていった先に
あった本
小島政二郎は読んだことがなかったので
鴎外と荷風と万太郎の名に引かれて
中をいちおう見ておくか
と手に取った
『鴎外荷風万太郎』
という
タイトルなのに
芥川龍之介についての文から始まり
著者の愛着も
芥川龍之介に対してが
いちばん
強いように見える
中学から高校のはじめ頃まで私は
じぶんの人生は
国語の先生か何かしながら
芥川龍之介の研究だけして過ぎていけば
満足だ
と思っていた
神保町にはじめて行って
高校一年の時
古書店というところではじめて本を買ったのも
芥川龍之介の研究書の一冊だった
買った店は三茶書房
今でも駿河台下で続いていて
じぶんが高校生だった頃と同じ棚の
だいたい同じあたりに
今でも芥川龍之介関係の本が並んでいる
その後
芥川龍之介からは離れてしまって
今さら芥川龍之介でもない
今さら芥川龍之介でもない
と思い続けての
歳月ののち
久しぶりに今年
作品集を一冊読み直してみたら
見事な語彙力と情報の駆使
さまざまな味わいをブレンドして
多彩な反射を文章に編み込む技量に再会し
やはり
感心させられた
作品によっては深みに欠けるものも
人物造形の浅いものもあるが
35歳で死んだ作家に
求めすぎてもいけないものもある
神保町については
芥川龍之介自身
『あの頃の自分の事』という随筆で
今と違って
九段下から古書店が並んでいた時代の風景を
描いている
そんな神保町で
私自身がはじめて古書店体験をしたことや
はじめて買った古書が芥川龍之介研究書だったことや
今年もスーッと指を引かれて
手に取ったのが
芥川龍之介をリアルに描く
小島政二郎の
もう古書でしか手に入らない本だったことが
ゆるい因縁の糸で
私にからみ付いてきたのが
ちょっと嬉しい
*『鴎外荷風万太郎』(小島政二郎、文藝春秋新社、1965)
0 件のコメント:
コメントを投稿