2022年11月16日水曜日

膝をすこし曲げて尻を突き出して


 

 

あたしアラバマからやってきたんだわ。

アラバマからずっと歩いて。

ずいぶん遠くまで来たのねえ

ウィリアム・フォークナー『八月の光』

 

 

 

夢のなかで女だった

 

背が高く

足が長い女で

黒人だったかもしれない

そうでなくても

肌は黒く

すべらかだった

 

場所ははっきり覚えている

中国の砂漠の近くで

背の低い草がまばらに生えている

砂漠というより

広大な荒れ野なのかもしれない

 

男たち10人ほどが

女のわたしのそばに腰を下ろして

裸のわたしを見ている

わたしは立っているが

腰をうしろに突き出している

 

大便をするところが見たい

と頼まれたので

立ったまま

尻も肛門もよく見えるようにして

膝だけすこし曲げて

わたしは大便をしている

 

男たちは人類学の研究者たちで

性的な興味や変態趣味から

こんなことを頼んできたのではないと

わたしにはわかっている

中国の外からやってきたわたしの種族は

膝をすこし曲げて尻を突き出して

立ったまま大便をするのだが

そういう習俗を見たいというのだ

 

わたしの種族では

大便をするのを見られるのを恥じない

それは生き物にとっての普通の動作なので

ものを食べたり

痒いところを掻いたり

目をしばたたいたり

くしゃみをしたりするのと変わらない

 

大便を肛門からながく垂れさがらせていたら

小便もいっしょに出したくなったが

そのほうは堪えた

男たちは大便をするのを見たがったのだから

小便をいっしょにするのは

よくないかもしれないと思えたのだ

 

そのあたりの砂漠や荒れ野では

排泄するそばから大便は乾燥しはじめ

しばらくすると固まるので

ものを燃やす燃料にするために拾って

集めておいたりする

 

わたしの生まれ育った地方では

牛や驢馬の大便のほうがよく燃えるので

人間は大便的には本当に役立たずだと

だれもが冗談を言っていた

 

そんなことはない

おれの大便はみんなのより燃えがいい

そう自慢していたジアリムという男が

わたしに求婚しようとしていたが

狩りの時に岩山から落ちて死んでしまった

ジアリムは男前でなかったし

わたしはべつに心惹かれもしなかったが

やさしい愉快な男だった

 

そう、わたしは

ジアリムが死んでしばらくしてから

放浪の旅にひとりで出てしまったのだ

べつに心惹かれもしなかったが

やさしい愉快な男だったジアリムを

どこかに求めようとしたのか

それとも外の世界をただ見たかったのか

中国の荒れ野まで来てしまった

 

そうして

中国からさらに海を渡ったところの

島々のどこかに住む男に

夢見られている

膝をすこし曲げて尻を突き出して

立ったまま大便をする

わたしたちの習俗そのままの姿を





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