2014年8月8日金曜日

よく知られたあの歌を思い出していた…



  
戦闘というのは兵器を持った者どうしの戦いをいうのだから
ガザで起こったのは戦闘ではなく
イスラエルが最新兵器を大量に投入しながらの
まったくの丸腰のふつうの人びとへの虐殺行為だった

どんどん人びとが傷つけられ殺されていく中で
やはりまた『いつも何度でも』を
よく知られたあの歌を思い出していた
宮崎駿の『千と千尋の神隠し』で使われていた歌

あのアニメ映画のいろいろなシーンを思い出すと
この歌はすこし映画全体とはズレているような気もする
いろいろなものが混ざり込んだ少女の冒険譚の
ごく一部だけを拡大しているような歌だから

大事な人と死に別れした人だけに
しみじみと意味の伝わるのがあの歌で
白い竜の化身の少年との別れに焦点を当てたいのはわかるが
物語はそれだけに留まらないもっと多くを含み込んでいる

ぼくは大事な人を失った時この歌をなんども大切に聴いた
人の死などこの世では珍しくなく昨日も今日もどこかで
いつも何度でも起こる当たり前のことだが
この歌をなんども聴き返したくなるような死に会うのは多くはない

そんな死に出会って一瞬に世界がまったく変わってしまった人だけ
そういう人にだけあの歌は特別な水のように浸透していく
みごとな曲とみごとな歌詞の融合で
大衆受けし俗受けする場所に奇跡のように現れ出た名詩だとも思う

死なれた後にひとりで見るあいかわらずの世の風景を
「さよならのときの静かな胸 ゼロになるからだが耳をすませる
「生きている不思議 死んでいく不思議 花も風も街もみんなおなじ
こんなふうに見たり聞いたりしない人がどこにいるだろう

火葬や埋葬の日の朝にカーテンを開けながら
「はじまりの朝の静かな窓 
「ゼロになるからだ 充たされてゆけ
という歌詞に支えられる気にならない人がどこにいるだろう

「閉じていく思い出のそのなかにいつも 忘れたくないささやきを聞く
聞きたい 聞き続けたいと思い
「こなごなに砕かれた鏡の上にも 新しい景色が映される
と酷なような救いのような新生のような気持ちに晒され

どんなにリアリストを気取っていても
「かなしみは 数えきれないけれど
「その向こうできっと あなたに会える
と思いたくなってしまわない人がどれくらいいるものだろうか

病気や老いでまだしもふつうに大事な人を失う時には
「繰り返すあやまちのそのたび ひとは ただ青い空の青さを知る
「かなしみは 数えきれないけれど
などの歌詞は少しピンと来ないかもしれない

しかしガザで起こったような虐殺に際しては
これらの歌詞はあまりにリアルで
そうか、こういうことだったかと考えさせられ
この歌の射程の広さにしんしんと驚かされていた

「こなごなに砕かれた 鏡の上にも
「新しい景色が 映される
というのもガザのような大破壊を思いながら聞けば
残酷でもあり巨大な力でもある滅亡と希望を示し得ている

大事な人を失えばだれもが死者の顔をしげしげと見つめる
見られるだけになり評せられ語られるだけになった顔の不思議を見
「生きている不思議 死んでいく不思議
そう、まだ生きている自分の不思議にも直面させられて

自分たちだっていずれ終わる不思議、それも打ち寄せてくる
「ゼロになるからだ
「ゼロになるからだ
「花も風も街も みんなおなじ


その時になにかに、そして、なにに「耳をすませる
のだろうか
なにかこれまで手の届かなかった純なちからや命に「充たされて
いくのか、いかないのか

「果てしなく 道は続いて見えるけれど
「その向こうできっと あなたに会える
のか、そんな思いだけ走るのか 「ただ青い空の 青さを知る
ばかりですべては消えていくのだろうか、それとも…






★引用は『いつも何度でも』より。
覚和歌子作詞・木村弓作曲・徳間書店2001
JASRAC許諾第J090816598

★★Youtube。木村弓の歌唱映像。



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