食卓には妻がいて
娘もいる
ちょっと頭の細長い女に
育ったなぁと
娘の顔を見ている
この遺伝は
どこから来たんだろう
と思いながら
長めの葉っぱの
南国ふうの観葉植物が
テーブルの花瓶に挿してある
ぼくは
すっかり老いている
体調は悪くないし
いたって元気なのだが
もう人生は流すだけ
そんな感じで
全身がやわらかくなっている
角張ってもいないし
ヘンな熱気も出さない
関節のやわらかい
肌のつやつやの
軟体老人
娘がパリに住むとか
住まないとか
そんな人生状況になっているらしい
おまえがパリに住むといいねえ
なんて
しきりに娘に勧めている
そうしたら
ぼくも好きな時にパリに行けるし
なにかと縁があった街だから
老いても関わりがあるのは楽しいし
なんて
にこにこしながら話している
それにしても
娘がキリッとした女に成長していて
よかったと思っている
妻も娘も女どうしの賢明さを分かち持っていて
いちばんぼくが頼りない感じだが
にこにこしながら話している
キリキリと心休まらない人生だったが
もう人生は流すだけ
望みとその実現なんかに
精魂傾けるたぐいの人生は
もうすっかり娘の代に任せてしまって
娘がパリに住めば
こんな老いぼれてしまったじぶんも
好きな時にパリに行けるから
なんて
なさけないたわむれ話をしながら
にこにこしているばかりの
全身やわらかな
角張ってもいないし
ヘンな熱気も出さない
関節のやわらかい
肌のつやつやの
軟体老人
の
ぼく
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