2017年2月7日火曜日

あなたがまだあなたになる以前の



失うわけにはいかないもの
それを守るために…

なんて
嘘だと思う

人間
中年もかなり過ぎたら
家族だろうが
財産だろうが
ほんとはどうでもいいと
思っているはず
飽き飽きしているはず

大災害で
飲みこまれるように
命を絶たれて
悔しかったでしょうねえ
死んでも死にきれないでしょうねえ

なんて
嘘だと思う

あゝこれで死んじゃうのかな
もう少し
しがみついていれば
助かるのかな
でも
まぁいいか
生きのびてあの人たちの中へ戻るのも
悪くはないけれど
もう
いいかな
生き続けたって
べつに
飛び上るほどの驚きも喜びも
ないだろうし
まぁいいか
もう
いいかな

なんていうのが
ほんとうのところ
ではないのか

すぐに
註記しておきますが
ぼくのことではありません
一秒一秒が彩りゆたかに弾けているのをぼくは知っている
時間がてのひらで掴めるようになってからは
時の玉をひょいひょいと作って
その中に地上にない苗木を植えたりする

あなたは空を飛べますか
あなたの空を?

夢の話ではありません
そうじゃないのです

さて
冒頭の行に戻って
ひっくり返しておこう

「失うわけにはいかないもの」
へへん、そんなもの
ない

「それを守るために…」
へへん、「守」れば
失うものさ

持っているもの
持っていると思っているもの
目の前に持ち上げて
てのひらを開いて
放してごらん

すべてが
浮いたまゝになれば
その時から
あなたは本当にはじまる

それまでのことなど
どうでもいいこと
あなたがまだ
あなたになる以前の
おはなし

おはなしにも
まだなっていない
関係のない
おはなし




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