2017年8月6日日曜日

けれど わたくし慈しんでいる 身近にいつもおいてある


  
短歌の結社というところに加わっていた頃
昔むかしのこと
ほしくもなかったのに
貰ったり
買わざるをえなかったりした歌集は
たぶん数十冊
百冊まではいかなかったと思うが
八十冊以上?
九十冊以上?

それらをどうしたか
それは
言わない

歌集を出したくて
うずうず
うずうず
どうしようもない人たちがこんなにいるのかと
よくわからされた頃

歌集を出すのと
歌人であるのとは
まったく関係がない
ということも

歌人
と呼ぶべき歌人たちの出した歌集を
けれどわたくし
慈しんでいる
身近にいつもおいてある
どれも初版本で
島木赤彦の『柹蔭集』
土屋文明の『往還集』
窪田空穂の『朴の葉』
葛原妙子の『原牛』
生方たつゑの『白い風の中で』
安永蕗子の初期の初版本五冊
塚本邦雄のほゞ全歌集
春日井建のほゞ全歌集
あゝ 永井陽子全歌集なんかも
築地正子全歌集
初井しづ枝全歌集なんかも
富小路禎子の主な歌集も
齋藤史の主なものも
柴宇田稔の主なものも

高嶋健一の全歌集も
ぜひ手に入れたいと思っているが
編まれてはいないのか
個別に手に入れるとすれば
『草の快楽』あたりが欲しいものだが

安永蕗子の初期歌集五冊は
熊本に遊びにいった折
古書店で偶然見つけて
箱詰めで郵送してもらった
全歌集を持っていて
すでに読み込んでいたので
初版本など買わなくてもいいのに
一冊5000円もするというのに
よい買い物だった

雨宮雅子の歌なども
この頃はもっと
手元に置きたく思ってきている
軽い口ぶりのようながら
闇を
闇の明かるみを
滋味ある生へと
変えてしまう所作には
歌というもののあるべきかたちが
じつに恵まれたさまで
現われ出ていた
こんなふうに

夏の夜のコールドコンソメ過現未のあはきひかりのごときを掬ふ*



*『雲の午後』(平成8年)




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