昨年からことし
東京にはろくに雪が降らなかったのに
三月もなかばになって
ひかりの衰えた昼間の空気のなかを
鳥の羽毛のような雪がふわふわと舞っていた
ゆうぐれ
闇がしだいに濃く染み上がって
そのなかを雪は
なおもふわふわと舞っていた
すべて
現在のまま
過去になっていく……
と
ありきたりな感慨を
わざと持ってみながら
おゝ、ならば
あらゆる過去は現在ではないか
やはり
と
感慨の微調整を
はじめていく
ぐつぐつ
している音は
カボチャを茹でている音
しばらく前に買って
冷蔵庫に入れっぱなしにしたまゝ
忘れてしまっていて
切り口がすこし黴びてきてしまっている
まだ夕食の時間ではないが
カボチャだけ
先に
茹でておこうと思って
春の雪の日
ちょっと不正確でも
まだ現在のまゝ
と呼んでもいいかもしれない
できあがっていきつつある過去のなかにいて
そんな過去が
わたしそのもの
そんな過去が
現在
ぐつぐつ
している音はカボチャを茹でている音
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