2020年10月13日火曜日

わたしの浮草のさがに

 

わたしの目から見ると

人々はだれもが

なにかをかたちあるものとして実現し

与えられた時間や空間を

その人なりの意味あるものとしてしっかりと用いている

その人の観念の中にしかなかったなにかを

この世の物質の世界に造形しおおせている

わたしは驚くのだ

この堂々とした迷いなき行動に

この物質界に生まれた者はこうすべきだと

いうかのような自信に満ちたありように

 

わたしだけは違う

なにをもかたちあるものとはせず

与えられた時間や空間を

わたしなりの意味あるものとしてしっかりとなど用いられず

観念の中に浮かび来るなにものをも価値あるものとは思えず

この世の物質の世界に造形して押し出そうとなどしない

わたしは驚くのだ

このふらふらした迷いばかりのありように

この物質界に生まれた肉体に十分に生を享受させるすべもないまま

その肉体とはいつも遊離して

どこにあるともはっきりわからないまま

この世の外ならどこへでも*

などという宣言さえ必要のないほどの常時不在の

わたしの浮草のさがに

 



*ボードレール「ANY WHERE OUT OF THE WORLD」(『パリの憂愁』)






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