2021年3月2日火曜日

この象徴をただ体験せよ


 

 

ユングの象徴概念を

マレイ・スタインがパラフレーズする記述を通して

ひさしぶりに再考しているうち

日本国憲法の「天皇」条項を思い出した

 

マレイ・スタインの記述をまず見ておこう*

 

象徴はリビドーの最も重要な組織者である。

ユングの象徴という言葉の使い方は精緻である。

象徴は記号ではない。

読まれ解釈されても記号の意味はまったく失われることがない。

停止の記号は「停止せよ」という意味である。

しかしユングの考えでは、象徴は、意識には理解できない何か、

あるいは現在の段階ではいまだ理解できない何かの、

可能なかぎり最良の表現なのである。

象徴の解釈は、象徴の意味をより理解しやすい語彙や

一連の用語に翻訳する試みである。

しかし象徴におきかわることはできず、

象徴はその伝える意味の最も優れた表現であり続ける。

象徴は人に神秘を啓示する。

それらはまた霊の要素と、イメージおよび衝動という本能の要素とを

組み合わせる。

この理由のために、高揚した霊的状態とか神秘体験の叙述は

しばしば栄養摂取とセクシュアリティのような

身体的・本能的な満足と関わっているのである。

神秘主義者は、神との結合のエクスタシーを

オルガズム体験として語る。  

おそらく、そのとおりなのだ。

象徴の体験は、強力で説得的な全体性の感情の中で、

肉体と魂を結合させる。

ユングにとって象徴がかくも重要なのは、それが

自然のエネルギーを文化的で霊的な形に変容させる能力ゆえである

 

そうして次に

日本国憲法の天皇条項

 

第1章 天皇

第1条

天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であって、

この地位は、主権の存する日本国民の総意に基づく。

 

ユング=マレイ・スタイン的に見れば

日本国の象徴であり

日本国民統合の象徴である

天皇は

意識には理解できない何か、

あるいは現在の段階ではいまだ理解できない何かの、

可能なかぎり最良の表現

であることになる

これを解釈しようとして

より理解しやすい語彙や

一連の用語に翻訳する試みをしても

いかなる言語表現も理性的探求も

これにおきかわることはできず

象徴としての天皇は最も優れた表現であり続ける

国民であろうと

外国人であろうと

天皇に意識を向ける者たちは

象徴である天皇を体験することしかできず

分析も解釈も翻訳も

もちろん批判もできない

 

天皇を象徴とした日本国憲法は

決定的な魔法の城塞であることがわかる

理性と言語は

この城塞を解くことはできない

この象徴をただ体験せよ

天皇をただ経験せよ

と象徴の本源的な力によって命じ続けているのが

日本国憲法である

 

 


 

*マレイ・スタイン『ユング 心の地図』(入江良平訳、青土社、1999)p.117

Murray Stein Jungs Map of theSoul : An Introduction, 1998





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