小雨は綿雨のようになり
此処では傘を差す必要も今はない
けれども
またすぐにもう少し太く
もう少し大きな粒となって降ってくるだろう
むこうの山嶺は
地上に降りた雲に覆われて
ただやわらかい白だけの世界となっているけれども
あのように此処も
まもなく白の靄のなかに
小さな雨滴の綿のなかに包まれてしまうだろう
雨滴がもっと大きくなるとは言っても
傘なしでこの草原を歩きつづけてもあまり濡れないほどの
温かくさえ見えるやさしい霧雨のままだろう
この白さに視界を奪われることのなんという幸せだろう
まるでこの白さとともに此処に現れたかのような意識の
このやわらかさのなんという快さだろう
霧雨の雨滴はもうすぐほんの少し大きさを増し
頬を湿らせ手の甲を湿らせ
ひょっとしたら鼻の先をすこし拭いたくなるかもしれない
けれども傘を開くほどではないだろう
やわらかい白に隠されてしまったむこうの山嶺を想像しながら
まだこの草原をゆっくり歩き続けられるだろう
暮れれば今日は少し冷えるかもしれない
太い木枠の窓に置かれたランプが暖色に明るみ
夕暮れの室内をきっと懐かしい色と薄闇で染めていくことだろう
0 件のコメント:
コメントを投稿