2026年1月31日土曜日

春の海


 


手紙書き職人になればよかった

わたくしの書きものには読み手がおらず

そんなものだとわたくしは持ちこたえても

哀しいかなや 文字たちは

さめざめ さめざめと泣くのです

読まれないわたしたちを書いて……と

さめざめ さめざめと責めるのです

ああ 春が来たらことしは

あの文字もこの文字も連れて

やわらかな青空の浜辺まで行こうか

まだ泳ぐには冷たくても

裸足で水遊びして駆けまわれるだろう

あの文字もこの文字もはしゃいで

わたくしに書かれた不幸をひととき

忘れてくれるかもしれないじゃないか

 

 

 



 

 

[初出] NOUVEAU FRISSON (ヌーヴォー・フリッソン) numero 71 (19982)
編集発行人 駿河昌樹
発行場所 東京都世田谷区代田115、ホース115205 
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