ちょっと親しかった溝口幸太郎
小さな広告屋
このあいだ事故で急死
こんなの作ってるんだよ
そう言って
渡してくれた水漏れ会社の広告
マグネットになっている
水漏れ
つまり
あらゆる水のトラブルに対応
ホームページのアドレス
住所
電話番号
いろいろと細かく書かれている
これを見せれば
2000円引なのだとか
ガスレンジの鉄板に貼ってある
台所に立つたびにたびたび見る
溝口幸太郎が細かく打ち込んだ文字
思案して配した色彩
レイアウト
間違わないようにと
確かめ確かめ
並べたであろう電話番号
小さな広告だが
たびたび見ていると
これはぼくの世界のひとつ
ぼくの意識に影響する
どんな出来事にも負けないほど
影響してくる
溝口幸太郎は死んでいる
溝口幸太郎は死んだ
溝口幸太郎はもういないのに
溝口幸太郎の作った広告が
ぼくの意識の一部を作っている
どんな出来事にも負けないほど
影響してくる
溝口幸太郎はいないのに
溝口幸太郎は影響し続けてくる
溝口幸太郎が意識の一部
ぼくは生きているのに
ぼくは溝口幸太郎に影響しない
ぼくは溝口幸太郎の一部でない
溝口幸太郎でさえないかもしれない
溝口幸太郎の作った小さな広告
溝口幸太郎に大して関わりもなかった広告
溝口幸太郎に今は本当に関わりのない広告
台所に立つたびにそれがガンとぼくに来る
台所に立つたびに裏側からも染み込んでくる
台所に立つたびに水漏れつまりあらゆる水の
トラブルに対応ホームページのアドレス住所
電話番号その他いろいろさらに2000円引
これが死ということかとぼくは思う
これが生ということかとぼくは思う
溝口幸太郎
溝口幸太郎
溝口幸太郎
溝口幸太郎
溝口幸太郎
溝口幸太郎はいないのに
ぼくは生きているのに
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