2016年12月30日金曜日

まだ出会ってさえいない 彼らさえ まだ生まれておらず



真実はすべてのなかにある。そして
物ごとの本質は、同時に隠れたり
あらわれたりしながら、物ごとの
外観(うわべ)にひそんでいる。
ジョージ・マクドナルド 『リリス』


おしまいということで
スマップの古い歌が流れていた
ほうぼうで
あちこちで

ながく続いたグループなのに
ちゃんと見たことが
ほとんどなかったから
じつは知らない歌ばかり
はじめて聞いた歌ばかり

でも
夜空ノムコウ
とか
世界にひとつだけの花
とか
そういうのは知っていて
いい歌だと思っていた
スマップとほとんど
関わらなかったぼくでさえ
これらの歌には
いろいろな
光景がまとわりついている

ほんとうに苦しいことばかりで
予想だにしない珍事や
裏切られることや
落胆させられることばかりで
数年後はどうなるか
まったく希望を持てないで
生きていた頃[]
♪あれからぼくたちは
♪なにかを信じてこれたかなぁ…
というのを聞いて
うまく言ってくれるよなぁ
と思った
ぼくの場合は
あくまで「ぼくは」で
「ぼくたちは」じゃないけれどなぁ
「なにかを信じてこれたかなぁ」じゃなくて
なにも信じられなくなった後を
生きるともなく
生きてきただけだったけれどなぁ
とは思いながら

そんなあの頃でさえ
今からみれば
なにか恩寵のような温かみに包まれてみえる
まだまだ若かったし
次々と出来事が押し寄せてきて
エネルギーもあった[]
なにかに守られている感じもあった
そんな中で
孤独っぷりを自分に演じる余裕もあったし
なにも信じられなくなった崩壊感覚も
たっぷり引き摺ることもできた
まるで
心の中ばかりは
遅れてきたロマン派として
なにを感じるにも
するにも
大げさなロマン派の滑稽な末裔として

「ぼくたちは」などと
一度として言えない
ひっそりとした生だったし
「なにかを信じてこれたかなぁ」じゃなくて
なにも信じられなくなった後を
生きるともなく
蔭から蔭と[]
音もなく擦り抜けながら
日蔭のカマドウマのような
羽もない虫として
声も出さずに
かつかつ
生き延びてきただけだったけれど

♪あのころの未来に
♪ぼくらは立っているのかなぁ

いま
こう聴き直しながら
そうだろうなぁ
あのころの未来に
立っているのだろうなぁ
と思う
なにも信じられなくなった後を
一度も
本当のことなど
発言もせず
文字に記したこともなしに
たゞ嘘八百ばかり書き散らして[]
かつかつ
生き延びてきただけだったけれど

そうだろうなぁ
あのころの未来に
立っているのだろうなぁ
一度も
本当に生きたとは言えない未来
たゞ排斥され
妨害され
邪魔され
黙らされ
流されてきただけで[]
肉体的に死なないできたというだけの
屈辱的な長い長い時間の経過の後の[]
未来
立っているといえば
立っている
しかし
一度も立ったことなどないだろうと言われれば
そう
一度として
立ったことなどなかった空虚な時間の後の
まるで
敗戦後の日本が幇間として
戦勝国のケツの穴や泥靴をぺろぺろ舐め続けてきたように
自分
であったことなど一度もなかった
ほゞ過ぎ去り終って
二度と宇宙的に取り戻しようもない
大文字の時間の後の
未来

ま、そう呼ぶことを
ノーテンキに選び続ける愚かしさに
安住し続けられるというのなら[]
だが…

…そう、ぼくはまだ
存在の子宮から出てさえいない
それどころか、
受精さえしていない
ぼくの真の父真の母
まだ
出会ってさえいない
彼らさえ
まだ
生まれておらず
彼らを創るはずの精子と卵子さえ
まだ遭遇しあってはいない[]





[]聖徳太子「世間虚仮 唯仏是真」
[]葛原妙子「青き實の憂愁匂ふうつくしき壮年にしてめとらざりにき」。
[] ニーチェ『悦ばしき知識』「おまえがおまえ自身を生きることができるためには、隠れて生きよ!おまえの時代に最も重大な問題であると考えられているものを知らずに生きよ!おまえと今日という時代のあいだに、少なくとも三世紀の皮膜を張れ」。
[]三島由紀夫『音楽』「言葉は何も証明しないからである」。
[]空海「三界の狂人は狂せることを知らず。四生の盲者は盲なることを識らず。生れ生れ生れ生れて生の始めに暗く、死に死に死に死んで死の終わりに冥し」。
[]村上龍『KYOKO』「途中でギブアップした人間にだけわかることがある。だが、その人間には発言権がない」。
[] 『アラビアのロレンス』中のファイサル王子の発言。「平和は老人のように醜い。あるのは、駆け引きと腹のさぐり合い」
[]塚本邦雄『魔王』跋「まさに怪・力・亂・神を謳ふべき季の到來」。




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