子どもの頃
やはり
毎朝のようにトーストを食べた
銀の鉄板と
黒い枠でできたトースターで焼く
古いアメリカ映画に出てきそうなトースターで
焼けると
バチン!
と音がして
パンが跳ね上がる
ちょうどうまく焼けたところへ
ちょうどうまくバターを塗れると
トーストは最高にうまかった
ビスケットよりも
ショートケーキよりも
うまかった
もう12年以上前になるのか
三軒茶屋で住んだマンションのダイニングは西向きで
晴れた日には
夕暮れ
つよい西日が差し込んだ
夕食まで間があって
小腹の空いた時
よく
トーストを食べた
西日がパンの上にまで来て
バターを塗っているところを照らす
ただのトーストなのに
光景は劇的で
塗りながら見惚れることがあった
大げさながら
これが生の頂点の光景ではないか
これが世界の終わりの光景ではないか
そう思ったりした
子どもの頃からの
数えきれないトーストの光景が
そんな時には
すべて
いっぺんに蘇るようだった
銀の鉄板と
黒い枠でできた
古いアメリカ映画に出てきそうな
あのトースターも
そんな時には
ありありと蘇った
焼けると
バチン!
と音がして
パンが跳ね上がる
そうして
すこし
悔やむのだ
鉄板にも
黒い枠にも
もっともっと
触れておけばよかった!
と
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