斎藤茂吉の
秋風の遠(とお)のひびきの聞こゆべき夜ごろとなれど
早く寐(いね)にき
(秋風の、味わいのある遠い響きが聞こえるはずの夜なのだが、
はやく寝てしまったよ)
を読み
5才頃から10才頃の
田畑に囲まれた田舎での秋を思い出した
新しくできた団地は
東西南北
田んぼに分厚く囲まれていて
真新しい部屋に移り住んだぼくは
稲たちが穂を伸ばして
夏から秋にかけて
風のたび
台風のたび
ぶつかりあって鳴りに鳴る音のなかで
朝を過ごし
昼を過ごし
夜を過ごした
『風の又三郎』のなかの音が
すんなり親しく
受けとめられたのも
そのせい
稲たちの穂のぶつかりあう音のなかに
きっと不思議な存在が
縦横無尽に自由に飛びまわっているのだろうと
ほんとうに
信じて疑わなかった
きみは稲穂のぶつかりあう響きのなかで
少年期を過ごしたことがあるか?
夢からふと覚めると
終わりなく稲穂がぶつかりあう響きのなかに
どこまでも
吸い込まれていくような経験を
きみはしたことがあるか?
だれにであれ
しつこく
そんな質問をしたくなる時が
ある
終わりなく稲穂がぶつかりあう響きのなかに
どこまでも
吸い込まれていくような時空から
ぼくは来たのだと
しつこく
言い募りたい時が
ある
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