用事の帰り
ゆうぐれ
ひともまばらな常磐線に乗って
一車両に数人しかいないのをさいわい
バッグふたつを
わきの席の上において
うとうと
それでも
なにか読もうかと思って
バッグに入れていた
語彙習得用のフランス語の大判の語学書を開いて
ぱらぱら
必須語彙を網羅した習得本らしいのに
フランスで作られた本で
ところどころ
説明は意外にむずかしいフランス語で書かれていたりして
とても並みの学習者には読めないはず
いったいだれに向けた本なのだか
よくわからない
不思議で
奇妙な
読みざわりを感じながら
ぱらぱら
でも
うとうと
うとうと
なにせ
二時間ほどしか眠らず迎えた日の
ゆうぐれだから
うとうと
途中
ひとがちょっと乗り込んできた駅があったので
ぼんやりホームを見ると
北千住だった
降りない
むかし
下北沢へ帰宅していた頃は
ここで乗り換えて
ながながと千代田線に乗って
うんざりしながら
帰ったこともあった
もうちょっと
むかしでないむかし
三軒茶屋へ帰宅していた頃は
ここで乗り換えて
そこそこ
大手町まで乗って
半蔵門線に乗り換えて
やっぱりそこそこ
長い距離を
揺られていったこともあった
時には曳舟や押上方面から
ダイレクトに三軒茶屋に向かうこともあったが
これは
長すぎて長すぎて
飽きた
若かった
そんなむかしや
もうすこし
若さの減じた
もうすこしむかしでないむかしには
北千住で降りて
駅ビルのいろいろな店を覗いてみたり
回転寿司なんか
ちょっと食べて帰ってみたり
それはそれで
けっこう楽しかった
ひとりだったが
楽しいゆうぐれだった
いつも絶えないひとびとの雑踏が
エネルギーになった
降りない
いまはもう
たまには
むかしのように
降りてみても
いいかな
と思う
が
降りない
いまはもう
そうして
やはり
ちょっとうとうと
し続けながら
じぶんのことでない
じぶんの言葉でもない
あいみょんのこんな言葉を
思い出したりする
北千住駅をフワッと歩く
藍色のスカート
いつになく遠く遠くに見える
加速する足音
素直じゃないと
いけないような気がしたよ*
いつになく
遠く
遠くに見える
北千住駅
焦らないでいい
いつか花束になっておくれよ
ぼくらはなにも見えない
未来を誓いあった
どんな未来が
こちらを覗いているかな
きみの強さと
ぼくの弱さをわけあえば
どんな凄いことが起きるかな?
ほら もうこんなにもしあわせ
いつかはひとり いつかはふたり
いや もっと もっと
大切を増やしていこう*
どんな凄いことが起きるかな?
若者たちよ
生きよ
きみらの強さと
きみらの弱さをわけあえば
ほら
もうこんなにも
しあわせ
*あいみょん 『ハルノヒ』 (2019)
https://www.youtube.com/watch?
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