福井県沖で見つかった遺体は
能登の豪雨で行方知れずになっていた
中三の女の子らしい
という
ニュースを見た
輪島から
福井の海まで
なんと長く
からだは泳いでいったことか
その長い海旅が
思われた
むかしのテレビドラマ
佐々木昭一郎の『紅い花』*を
思い出した
語り手は
東京大空襲の夜に
猛火から逃げようとして
妹と川に飛び込んだ
語り手は気を失ったらしく
気がついてみると
妹はいなかった
その後の彼の人生は
妹をさがす人生となった
『紅い花』は
支流のひとつから隅田川までの水面を
水に接するばかりに
すれすれに
カメラを寄せて撮り続けた
92秒ほどの長い映像に
語り手のこんなひとり語りをかぶせつつ
終わっていく
気がついてみると
そこは言問橋のすぐ下だった
ぼくは火のついた丸太にしがみついて
川から這い上がった
川は死体の山だった
メガネ屋のおばあさんは吾妻橋の下で死んでいた
畳屋のおばさんは涙橋で見つかった
みんなこの川で死んだ
ぼくの顔は火傷だらけになっていた
ぼくはぼろ切れを見つけて顔に巻きつけた
川に映った僕の顔は狐のお面にそっくりだった
戦争が終わり
町にはアメリカ人の牧師がやってきた
教会ではじめて教わった歌は
ぼくらが日ごろ歌っていた
「たんたんたぬき」だった
それは聖歌687番のリバーソング
川を歌った曲だった
それから妹を探す日が続いた
妹と
どの川に飛び込んだのか
今でも思い出せない
いろんな川が隅田川に流れ込んでいたから
妹は
きっと
川を下って
海に行ったのだろう
なんと長く
からだは泳いでいったことか
と思う
きっと
川を下って
海に行ったのだろう
*佐々木昭一郎『紅い花』(1976年、NHK「土曜ドラマ』、
https://www.youtube.com/watch?
0 件のコメント:
コメントを投稿