まよい込んできたカブトムシを
木箱に入れて
もらってきたことがある
八百屋をしていた
父方の
祖父母の家から
大きくて
黒々と頑丈そうで
子どもには
持っているだけで
頼りがいが
あるようだった
真夏の
暑い日だったというのに
どんな用事が
あったのか
ゲルマントのほうならぬ
母方の
祖父母の家にもまわって
次の日の昼日なか
庭に出しっぱなしにしておいたら
夕方には
カブトムシはのびてしまった
まだ幼稚園にも入らぬ頃で
この喪失は
ぼくには応えた
太陽のせいだとか
(まだカミュの『異邦人』を知らなかったナ…)
暑さのせいだとか
いろいろ
理由を考えたり
じぶんへの弁解を
くつくつ
ぐずぐず
考えたりしたが
すべては
カブトムシの弱みを
知らないでいたじぶんのせいだと
身に染みてきて
なにもかも
イヤになるようだった
その後
カブトムシ採りは
飽きもせず
さんざん重ねていくようになったが
父方の祖父母の家から
カブトムシをもらってくることは
もう二度となかった
大きくて
黒々と頑丈そうで
子どもには
持っているだけで
頼りがいがあるような
そんな
カブトムシには
もう出会うことはなく
どの虫も
どの虫も
もう庇護の対象でしかなくなった
カブトムシは
小さな子どものぼくより
弱いのだと
知ってしまったから
夏の太陽にも
昼日なかの暑さにも
ビクともしない
大きくて
黒々と頑丈そうで
持っているだけで
頼りがいが
あるようなカブトムシを
幼い頃
ぼくは求めていたのかもしれなかった
いまも
求めているのかもしれない
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