雨は
激しくなるばかりだった
結婚することになっていった娘と
むかし
こんな雨に
降り込められてね…
丈志は
それがどこだったか
までは
言わなかった
大きな公園に歩きに行ったのだけど
急に降り出して
まさか
あんなに降られるとはね
一時間半ほどは
降り続けで
ずっと雨宿りしていた
でも
しっかりした建て方の
広い休憩台で
よかった
一時間半ほど続いたけれど
だれもいなくて
ふたりだけだったのも
よかった
代々木公園の
白の休憩舎でのことだとは
丈志は
言わなかった
そもそも
丈志は
その休憩台の名を
まったく知らないまま
何十年も
過ごしてきていた
今も
知らない
もちろん
丈志のつぶやきに
答える者は
だれもいない
公営墓地の
大きな納骨堂のホールを
出ようとしたところで
雨は降りはじめ
見る間に
激しさを増していった
ホールにも
納骨堂の外にも
だれもいない
白の休憩舎で
いっしょに雨宿りをした娘は
その後
ほかの男と結婚し
四人の子を儲けて
ある早春
急に逝った
と聞いた
その娘の骨が
この納骨堂にあるわけでは
ない
結婚しなかった理由は
丈志が
生まれつきの
男色家であることにあった
というより
娘と同時期に
もっと激しくつきあっていた
シンジのことが
娘の知るところとなり
丈志としても
シンジを裏切れなくなったことに
あった
納骨堂の三階の
「を-S-31」に
シンジの骨壺は納められている
丈志は
月に二度ほど来て
時には
骨壺を持ち上げて
かるく振ってみることもある
ガサガサと
乾いた音がするだけで
あれほど愛した
シンジの
せつないほど愛おしい男根の
ひたひたする
ぬめりぐあいは
壺の中には
もちろん
ない
シンジの
あの男根を思いながら
白く
激しく
降りつのる雨を
丈志は聞いていた
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