2023年7月9日日曜日

もうひとりのお姉ちゃんが立ったままで


 

 

ちょっといい

お化け話

聞いたんだな…

 

小さい姉妹ふたりのいる家庭で

お姉ちゃんが

人気のある遊園地に行きたいとせがんだ

 

お父さんは仕事で忙しくて

家族で遊園地に行くのは

ちょっとムリ

 

それでも行きたい行きたいと

お姉ちゃんがひどくうるさくせがむので

お父さんはなんとか折り合いをつけた

 

いざ出発となって

山を抜けて他県の遊園地のほうへ

家族四人で車で向かう

 

ところがどうしたことか

山の中の道を走っている時に

お姉ちゃんが行きたくないと言い出した

 

おまえのために仕事もムリして

なんとか調整して出てきたっていうのに

今になって行きたくないとは何だ!

 

お父さんが怒るのも当たり前で

今さら戻るなんて言うな!

遊園地にちゃんと行くぞ!と進む

 

しかしお姉ちゃんはどうしても嫌だと言うので

お父さんは山中で車を止めて

お姉ちゃんを外に引きずり出した

 

そんなに行きたくないなら

おまえはそこでずっと待っていろ!

家族三人で遊園地に行ってくるから!

 

そうしてお姉ちゃんを

山の中の道のその場所に置き去りにして

お父さんは車を走らせ始めた

 

もちろんお姉ちゃんを

山中に置いていくわけにもいかないので

しばらく進んだものの引き返した

 

さっきの場所にお姉ちゃんはうずくまっている

お父さんはお姉ちゃんの手を引っぱって

はやく来い!と車の中に引きずり込んだ

 

その様子を車内から見ていた妹は

うずくまっていたお姉ちゃんの後ろに

もうひとりのお姉ちゃんがいたのに気づいた

 

車に戻ってきたお姉ちゃんを見ると

姿かっこうはいつものお姉ちゃんだが

本当のお姉ちゃんではないと妹は感じた

 

いつものお姉ちゃんはすぐにぐずりがちで

すぐ機嫌を悪くしたりふて腐れたりするのに

戻ってきたお姉ちゃんの性格は違っていた

 

はっきりしたしゃべり方で謝ったり

遊園地に行けることがどんなに本当は楽しみか

うれしくてうれしくてたまらないと言ったり

 

妹から見るとがらりと変わってしまっていて

ちょっとの時間とはいっても山の中に置き去りに

されたものだから反省したのかなとも思えた

 

反省したとしてもニセモノのお姉ちゃんでも

とにかくこのお姉ちゃんのほうが明るくて

はっきりしていていいと妹は思った

 

しかし走り出す車の後ろから見てみると

さっきお姉ちゃんがうずくまっていたところには

もうひとりのお姉ちゃんが立ったままでいた

 

こんなことがあってから二十年以上が経ち

お姉ちゃんは結婚してふつうに幸せに暮らしているけれど

妹はときどきあの時のことを思い出してしまう

 

もうひとりのいっそう本物に思えるお姉ちゃんを

家族はたしかにあの山の中に残してきたはずだが

あのお姉ちゃんはその後どうなってしまったのかと






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