本人だけにしかわからない回路で人生を生きていく
吉本ばなな『パイナップリン』
暑い暑いといいながら
ほんとに汗まみれになりながら
7月の終わり頃なんて
毎日のように飲みに行ったよね
と言う
クーラーの効いた店で
ビールをいっぱい飲んでも
店の外に出ると暑いもんだから
涼しさも酔いもいっぺんに消えちゃって
また汗だらけになってきてさ
と言う
歌舞伎町で朝まで飲むと
始発を待つまで居るところといったら
どっかのラブホじゃなくって
マクドナルドとか
ミスタードーナッツで
もうコーヒーとかは飲みたくなくって
それでもドーナツなんかは
けっこう食べられるので
不思議なもんだと思ったよなあ
と言う
渋谷での朝帰りは
けっこう居酒屋で迎えたかな
みんなテーブルに俯したり
ソファーにのけぞって
もう話もろくにできなくてさ
誰かがなにかひと言ふた言いうと
ううんとかあああんとか
音だけ出して目を閉じてるんだみんな
という
ちょっと遠いところまで
歩いて飲みに行ってみよう
帰りも歩いて戻るぞ
なんて誰ともなしに言い出して
なんとなく付いていって
せっかく涼しく飲んだのに
40分ぐらい歩いて
東京を横断して帰ってくるもんだから
都心に来たらもう汗だらけでさ
と言う
納涼企画のお話会とか
オールナイト怪談映画とか
見に行ったのはいいけど
2時半をまわるとさすがに疲れちゃって
これって歳とったらムリだよな
なんて言いながら
なんとか五時頃まで
けっこう何度も
頑張ったんだよな
と言う
週にふたりか三人ぐらいは
女の子たちと飲んだな
でもちゃんと
11時半頃には帰らせるんだ
その酒は強すぎるとか
こっちのほうがうまいかもとか
そんな指導っぽいことして
飲んだり食べたりしてるうちに
こっちのほうが疲れてくる
ふらふらになってくる子もいたけど
夏の夜の酔っ払った女の子の
汗まみれの肌になんか
あまり触りたくなくって
9時半頃からは終わらせモードに入り
ほら、水いっぱい飲んで!
ほら、終電になっちゃうから!
とか言ってシャキッとさせて
なんとか送り返したものだった
と言う
そうさなあ
酔った女の子はお持ち帰りとか
そういうのって
ふつうに多いわけじゃないと思うんだよ
だって
魅力ないぜ
酔ってフラフラしてる汗だらけの子って
飲み食いしたものの臭いが
胃から洩れてくるしさ
髪の毛だって
いくら香りの強いリンスしてたって
もう夜中には汗臭いだけ
と言う
それにさ
それまでさほど知らなかった子と
朝までホテルに居たら
こっちは髭は生えるし
酒で疲れた顔は朝にはまだ戻らないし
そんなとこ見せたくないしね
と言う
そういうの
あるよね
妻とか同棲相手じゃなきゃ
そこまでは見せられませんっていうとこ
あるよね
だからおれは
しかたなくホテル行っちゃった時は
相手が寝込んだ時に
ひとりだけ先に抜け出したものさ
寝乱れた頭や疲れた顔を
朝に見せたくないから
小心者だけど
先に失礼させてもらいます
よく寝て
ゆっくりしててね
なんてメモを残して
ホテルのフロントには
寝入っているから
もっと寝させておきます
心配ないですから
とちゃんと顔を見せて言って
そうして出て行くのさ
まだ5時にもならないうちにね
と言う
この世に
すこし恨み残るは
わろきわざ
となん
聞く
(『源氏物語』・夕顔)
と言う
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