蓮台へ行くには
新宿から初台方面へ行くバスの脇のバス停から乗るのがいちばんよ いので
ハスダイ行きはどれですか? ハツダイではなくて…
と紛らわしい発音を何度かしながら
ようやく
蓮台行きバスに乗り込む
面倒だからいろいろな経緯は省くが
乗り込んでいくらもしないうちにバスは細い路地を進んでいき
両側に木造のあばら家がみっしり建っていて
貧困の成せるわざなのか
それとも昭和懐かし…風のテーマパーク的なものなのか
つげ義春や水木しげるの世界にでも深入りしていくような風景とな る
面倒だからいろいろな経緯は省くが
路地は1メートル50センチほどの幅に狭まって
とてもではないがバスが通れるような道ではないのに
私を乗せたバスは平然と疾走を続け
どうやらこれは
バスだけでなくわたしも可塑的になりゴム化し二次元化さえし始め
もはや道が太かろうが細かろうが
なんでも御座れ式にずんずん踏み込んでいけるようになったらしい
面倒だからいろいろな経緯は省くが
もうもうもう自転車でも通れないような細道になって
それにもかかわらずバスはバスの概念を保ったまま疾走していく
両側の家々の壁や塀や門などにはばんばん当たっているし
ときどき草ぼうぼうの野っ原に出た日なんぞ
背の高い雑草がわさわさとわたしに容赦なく当たってくる
これほどまでしてバスの概念は走るのか
蓮台行きのバスの概念とはここまで壮絶なものであるか
などと思いながらわさわさと雑草に引っぱたかれ
がしがし家々の壁にもぶつかられ続けている
面倒だからいろいろな経緯は省くが
まだ蓮台に着いたわけではないはずなのにバスは停車し
どういうわけだかわからないが此処で名物を食えという成り行きに なる
わたしの右わきのバスの壁がいつのまにか開いて
小さな店の鉄板が目の前に現われ
人のよさそうなオバサンがなにか焼いているが
どうやらそれがわたしの分らしい
お好み焼きに似ているが洋風でもあれば和風でもある独特の配合で
熟成した深い味わいのカレー風のソースが
タルタルソースのようにたっぷりと盛り上げられ
その上にさらに白い濃厚なクリームっぽいものが盛られている
まだ食べていないのだからソースが熟成味なのか深い味わいなのか
そんなことはわからないし
白いクリームっぽいものも濃厚なのかわからないが
食べる前からそんな雰囲気がぷんぷんしている
その料理の前にはもう少し小さいものがふたつ並んでいて
それも似たような焼き物らしいが
そちらのほうには味の違うカレーっぽいソースが盛られていて
いろいろな素材が練り込まれているらしく
キューピーの髪の毛のようにクルッと立ち上がっている
面倒だからいろいろな経緯は省くが
蓮台に着く前にこれらを食べて行きなさいと言われているので
今から箸をもらって食べ始めるところだが
スプーンもフォークもナイフもあるからご随意にとのことで
それじゃあまぁ食べてみることにするかな
とちょっと楽しいような気分になってきている
ビールも酒もワインも用意されていないようだが
こういう時にアルコールがなくてもいっこうかまわない性質なので
べつに困らないのだが水くらいはあったらいいかな
とちょっと思ったがそういえば鞄の中にミネラルウォーターがある ので
喉が渇いたらあれを飲めばいいだろうと思っている
面倒だからいろいろな経緯は省くが
こういうわけで鉄板の上の簡易な感じの料理を食べ始めようとしな がら
そういえば蓮台にどうして向かうことになったのか
わからないなぁ
どうしてだったかなぁ
と思い始め
そればかりか
行くべき場所は蓮台ではなくて
蓮郷…とかいうところではなかったか
とちょっと怪しくなってきた
蓮郷と書いてハスゴウではなくレンゴウと読む場所で
あれれれれ
そうするとこりゃぁ大間違いをしたかもしれないな
けれどもしょうがない
今はとにかくこれらを食べてみるしかない
蓮郷に行くべきだったわたしなのだとは知られることなしに
目くるめく展開してきたこの数十分の世界の
いちばんいいところを味わっておいたほうがどう考えたってよくて
まぁ
食べてしまった後で蓮郷でした
と言い始めれば
また世界はべつの展開を始めるだろうから
世界のことはいつも
こんなふうに“乗せて”やって勝手に動いてもらうに限るので
これも一種のサーフィンのようなものかもしれない
世界サーフィンとでも
呼んでおくべきか
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