2019年4月9日火曜日

くしゃくしゃに縮まった桜

 

忙しさにかまけて
栄養を与えるクリームをしばらく擦り込んでいない

ひさしぶりに玄関に座り込み
靴を何足か
磨きはじめる
まずはブラシで縫い目まで埃を払い
それからクリームを塗り込む

ツヤ出しの簡易クリームではだめで
ちゃんと栄養分を染み込ませられるクリームで
ときどき磨かないとだめです
靴屋でそう教わった

座り込んで何足も磨くと
けっこう足や腰が疲れてくる
釣り人が使うような小さな折り畳み椅子を出して
そこに座ってやるほうがいいが
それはそれで
靴を置いたり拾ったりするのに遠くなる
物事はどれも
こちらが立てばあちらが立たずで
万事うまくいくようなやり方はなかなかない

ひとつの靴の裏を見ると
滑り止めのゴムのギザギザのやや広めの溝に
白いような
桃色のような
紙だか
ガムの破片だか
そう見えるものが挟まっていた
一見きたなく見えたが
よく見直すと緑の部分もあって
くしゃくしゃに縮まった桜だった
緑の部分は萼らしかった
数日前の花見で踏みつけた落花だった

花びらだけでなく
萼まで含まれているということは
メジロあたりが突っついて落とした花だったか

つい数日前の
長くながく歩き続けた
たったひとりでの花見のことなのに
もう何年も前の
何十年も前の
懐かしい頃のことのように
しあわせだった花見の長いながい時間が
靴の裏の
滑り止めのゴムのギザギザのやや広めの溝に
くしゃくしゃに縮まった桜から
香りのように蘇った



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