2019年10月5日土曜日

なんどもなんどもヴェランダに出る


  
詩なんて
書こうと思ったことはなかった
じっさい書いたこともない
文とはちがったかたちで字を並べるのは楽しいので
そうしてみただけ

今夜は
こんなことを言いたい
記したい

字を並べるのにも
どんなにサッと切り上げるにしても
時間がかかるし
疲れたからだだって
とりあえず起こしておかないといけない
それほどまでして
文字並べをする必要はないな
いつも思っている
詩なんて
書こうと思ったこともなく
じっさい書いたこともない人間は
こんなふうに
思うのだ
こんなふうに思いながら
字を並べている

今夜は
こんなことを言いたい
記したい

今夜はずいぶん空気が澄んで
東京タワーも
ビル群のあかりも
手に取れるように鮮やかだ
ぼくはそれらをそんなに大事に思ってはいない
けれども
それはそれなりに
目を惹くものではある

こんなことを記すのを
ちょっと休止して
わざわざヴェランダに出て手すりに寄りかかって
しばらく眺めていたい気になるほどの
ものではある
そんなに
大事に思ってはいなくても

ほら
今夜はあんなにあざやかに見える
あんなに赤く見える
あれらのビル群のあかりも
ちかちかと
くっきりと
ずいぶんきれいに見える

こう語りかけたい人たちが
もう
この世にはほとんど残っていないのを
そう痛切には感じずに
ぼくは再確認する

今夜
こんなことを記しても
もう
見せるべき人たちがほとんどいないのと同じようだ
と思いながら
ぼくは
タワーのあかりや
ビル群のあかりを見にヴェランダに出る

必要でもないのに
なんども
なんども
ヴェランダに出る

いっしょにあれらを眺めたい人たちも
あれらのあかるさを伝えたい人たちも
もう
この世にはほとんど残っていないのを
そう痛切には感じずに
再確認しながら
なんども
なんども
ヴェランダに出る




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