八千草薫という女優さんは
ぼくが女性の美を意識するようになった頃
もう
おばさんか
おばあさんとしか見えず
おばさんか
おばあさんとしては
きれいな人だと見えたけれども
それだけのことで
少年や青年がひとりの女性を
おばさんか
おばあさんといったん見るようになると
その人は
もう
いつも
いつでも
いつまでも
おばさんか
おばあさんなのだった
日本のむかしの映画に関心を持つようになってから
むかしにも美人はいっぱいいたんだ
とあらためて気づき
八千草薫が妖精のようにきれいだった頃の写真も見て
あの
おばさんか
おばあさんとしか見えない人も
あんなにきれいだったのか
ひょっとすると
そこらの美人女優がかなわないくらいの
比類のないほどの美女だったわけか
と賛嘆したものだった
あらためて
若くて
比類ないほどきれいだった頃の写真を見ると
はっ
と息をのむように美しいのは
だいたい
少年か青年のような顔をしている時で
この人の美しさは
じつは
若い男性のふとした瞬間の美だったのだな
と
気づかされる
女性の美は
つねに
じつは男性っぽさのことなのだが
やさしくて
落ち着いていて
きれいだった
おばさんか
おばあさんにしか見えなかった人の
美しさの本質を支えていた
少年らしさ
青年らしさを
これからしばらく
見直すことにする
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