昨日の夜おそく
いつものようにスーパーに無料の水を取りに出る時
窓さえ閉まっていれば風など入ってこないエレベーターホールで
天井のほうからスウスウと寒い風が下りてきていた
風が洩れてくるようなところとしては
天井には非常用の丸い小さなスピーカーしかないが
そこから洩れてきているのではないらしい
LEDの電球の球のついているもっと小さな丸いところからも
風が洩れてくるはずがないのは
見ればわかる
それでも天井からスウスウと風が下りてくるので
どうもヘンだな
と思いながらエレベーターに乗って
ずいぶん気温の下がっている外へ出た
スーパーまで歩いて行く途中
細い道をくねくね曲がりながら大通りへ抜けていくのだが
後ろの右のほうから
どうも人のしゃべっているような声がする
つぶやいているようでもあり
ささやいているようでもあるが
とにかくだれかがしゃべっている
しかし振りむいてもだれもいない
どこの道へ曲がっていっても
人のしゃべっているような声は聞こえるので
どうもヘンだな
と思いはじめた
どこかのなにかの音が反響して
後ろから聞こえてくるのだと言えば言えないこともないが
どこの道へ曲がっていっても同じように聞こえるのは
やっぱりヘンだと思える
ただこれだけのことだが
その後
何時間も経ってから
もう夜明けが近くなる頃に
またエレベーターホールまで出て行き
地下階にゴミを捨てに行った
エレベータホールでは
やはり
天井から冷たい風が下りてきている
ただそれだけのことで
べつになんも起こってはいないのだが
エレベーターに乗り込んだ時
内部の空間そのものが
なにか
生物のように感じられた
地下階でエレベーターを降りると
地下階のエレベータホールはいつも点灯されておらず真っ暗で
人が来るとすぐに感知されて電灯が点くのだが
それでもとりあえずは真っ暗な中へ踏み出していかないといけない
それがいつも小気味よくて
異世界に一瞬だけ踏み込むようでちょっと楽しいのだが
今回だけは
その真っ暗な異世界が
やはり
生物のように感じられた
なんというか
うごめきを感じるのだ
揺れや震えや
とろりとした感じや
あたたかみのようなものさえ
感じるのだ
なにが起こったわけでもないのだが
この時
ようやくわかった気がした
この数日で
世界がガラリと変わったのだ
これまでしゃべらなかったはずのものがしゃべり
これまで動かなかったはずのものが動くように
この数日で
ガラリと変わった
これから
とんでもないスゴイことに
なるよ
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