今のところへ引っ越してきてから
もう
七年ほどになるのか
この七年間
使わずにしまっておいた風鈴を
ふたつ
今年は出してみる気になった
ひとつは鉄製で
青く塗られており
うまく風が吹けばいい音が響くが
古くなってきて
短冊は昔ほど風をうまく受けとめない
べつの紙に変えれば
おそらくいい音が蘇るだろう
もうひとつは
陶製の招き猫の中に
舌(ぜつ)として五円玉が下がっており
そこから糸が伸びて
赤い金魚の絵が描かれた短冊が揺れている
見た目は楽しいが
五円玉が陶製の招き猫とぶつかっても
音はあまりよくない
五円玉を他の金属片や陶片にとり替えれば
もっと音はよくなるかもしれない
風鈴の仕舞われていた箱の中には
ちょっとした棚飾りの小さな人形のたぐいや
置物にするようなあれこれが
ろくに包装もされずに
がっさりと一緒くたにされて入っていた
重要でもない細かな玩具じみたものに
気を配っていられないほどの
引越しの時の気ぜわしさが
まだその箱の中には静かに溜まっていた
七年前の自分を何割かは失ったまま
あるいはばらばらの状態で置き忘れたまま
なんでもないかのように
新たな環境に適応して生きてきたつもりでも
七年前に生じた生活の大きな断層は
あまりにたくさんの物をいまだ整理できておらず
箱の底を見直す暇さえなかったことで
そのまま押入れの奥にあり続けている
風鈴ふたつを窓際に吊して
鳴っても
鳴らなくても
ゆらゆら揺れ続けだけはする短冊のむこうに
遠い台風がもたらしてくる入道雲や
かなとこ雲を見ていると
ばらばらの状態で置き忘れたままの
七年前に失った自分の何割かが
ようやく
今の居場所に追いついてくるように感じる
いや
七年どころではない
もっと前に
もっともっと前に
何度となく
生活の中に突然襲ってきたいくつもの断層のむこうから
ばらばらに飛び散り
失われたと諦めていた自分の断片たちが
ようやく
集まって来つつある気がする
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