この世でわたしは
音楽を聴いた
美術を見た
本をめくった
草に触れ
木肌に触れ
水に触れ
なにに触れていなくとも
空気に包まれていた
この世でわたしは
肉体というものを経験し続けた
無数の細胞から成り
細胞も無数の元素から成り
元素は分子から成り
分子は原子から成り
原子は素粒子から成り
素粒子は波動から成り
まるでそれらは
わたしそのものででもあるかのように
つねに謀ってくれていた
なにより
この世でわたしは
精神とか霊とか魂というものを
肉体と重ねて経験し続けた
それらのどれかと
自己同一化したがる思想が
地上には蔓延しているが
それらのどれともわたしが違うのを
経験によって
わたしは確認した
だからわたしは
精神とも霊とも魂とも肉体とも
容易に別れることができる
そして
わたしというこの言葉よ!
おまえこそが
もっともわたしから遠いもの
言語界でのみ使われる
発話者の印となる仮面よ!
日本語界では
容易にぼくになり
おれになり
あたしになり
おいらになり
わてになり
あっしになり
すぐにまたわたしに豹変してみせる
もっとも信頼できない
不在証明よ!
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