2023年9月19日火曜日

幸だの不幸だの不遇だの

 

 

 

ひとの世にいると

幸だの

不幸だの

不遇だの

そんな

いろいろな評言を作文するように

うっかり

言語脳は動きそうに

なってしまう

 

そんな時

動きを止められるひとは

さいわいだ

 

幸だの

不幸だの

不遇だの

そんな評言に

そもそも

まったく意味はない

 

えもいわれぬ

美しい一輪の花

それが

目の前にある瞬間が

得がたい愛を

相手から伝えられた時であることも

ある

人生のすべてを失って

拳銃の引き金を引く直前であることも

ある

高圧の電流の走る

収容所の鉄条網のむこうに

皮肉に咲き出でているのを見つけた時であることも

ある

 

都会での仕事に追われ続けたあげく

ひたすら海が見たい

海の水にたっぷり浸かりたい

と長らく思った末に

全身でどっぷりと浸かり込み

顔も頭も

波に潜らせてみる時の

海の水もあれば

泳ぎたくもない時に

服を脱ぐ暇さえ与えてくれずに

流されてきたたくさんの物といっしょに

濁った激流のなかに

こちらの体もこころも命も引き込んでいく

厳しすぎる水泳教師のような

海の水もある

 

そんな

厳しすぎる海の水も

オフェーリアにとってならば

甘美な救い

やさしき導き手





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