今日東京市中の散歩は私の身に取っては生れてから今日に至る過去
永井荷風 『日和下駄』
住んでいるところの東西南北
どこも桜のうつくしいところばかりなので
桜ファンではないながら
咲く時期には
連日
仕事や用事の隙を縫って
いそがしく出歩く
上野公園からの徒歩での帰りしな
あそこには
あまり桜はなかっただろう
などと思いながら
神田明神にも寄った
ところが
境内に入ると
これは
これは
みごとな桜の満開が
待っていた
名所と呼ばれるほどの本数はないが
朱塗りの隨神門を背景に咲き誇る
大樹の咲きっぷりは
数多い桜の風景のなかでも
江戸の華と呼ばれるべきものだろう
この風景なら
桜の美に小うるさい京都人たちも
おそらく認めるに違いない
さすがに
江戸最高の神社だけあって
四季おりおりの景観の整えに
抜かりがない
桜の時期というのに
境内で
はやくも神田祭の案内を見たが
おやおや
なにがはやいものか!
初夏五月の十日過ぎ頃から始まるのだから
もうひと月後ではないか!
桜が済めば
あれこれの行事に一気に忙しくなる
江戸らしさが始まっていく
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