時雨来む七尾の海に能登島に乗らむ船待つ牛乳を飲みて
土屋文明
遠い国の遠い大学で学んでいる娘も
もうずいぶん大きくなって
送ってきた写真を見ると
彼女を産んだカレンのように美しい脚をしている
ぼくにはひとりで続けるべき旅があったので
たしかカイロのどこかでカレンと別れたが
あの後彼女も妊娠しながら旅を続けて
いま娘のいる国に流れついたらしい
どれもこれも
語り尽くせないほどの細部の絡みあい
ぼくらはちょっと物語るたびに
ほんのちょっとだけ大まかな筋を拾い出し
あとは聞き手に勝手に想像させる
いつのまにかカレンは尻軽女にされていたり
いつのまにかぼくは不幸の英雄にされていたり
あるいはたゞのろくでなしとされていたり
けれど
誰にも本当のところはわからなくて
一度も育てることをしたことのない娘の脚を
まるで初めて会った見知らぬ娘のそれのように
ちょっと写真をひらひらさせながら
ぼくは南島の浜辺のバーで見続けている
気の利いたカクテルなんか飲みながらではなくて
特別に頼んだ濃厚なミルクを出して貰いながら
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