2023年12月3日日曜日

世味年來薄似紗


 

 

世の中への興味も薄れちゃったよ

紗ほどに

うすぎぬほどに

うすく

うすく

 

と詩をはじめるなんて

やっぱり

陸游*はいけてるな

 

思い出し

そうだ

ちょっと訳しておこう

なんて

思いついちゃって

 

 

      *

 

 

臨安で春雨がはじめて晴れたよ   

   陸游

 

 

この何年かで

世の中への興味も薄れちゃったよ

紗ほどに

うすぎぬほどに

うすく

うすく

  ね

 

なのに

誰にだかわからないけれど

呼び出されて

馬になんか乗ってきて

花の都で

お上りさん

 

小さな二階屋で

ひと夜

春の雨を聴いたかと思えば

翌朝には

路地の奥で

杏の花を売る声を

聞いているよ

 

短い紙きれに

ちゃんと行も揃えずに

草書してみたり

 

晴れた窓辺で

まねごとながら

なんとか

きれいに泡を立てようと

茶を点ててみたり

 

着ている白い着物が

都の塵に汚れちゃうんじゃないか

などと嘆く必要は

まあ

あるまい

 

清明節の頃までには

きっと

家に帰ることが

できているだろうから

 

 

     *

 

 

臨安春雨初霽  陸游

 

世味年來薄似紗  
誰令騎馬客京華  

小樓一夜聽春雨  
深巷明朝賣杏花  
矮紙斜行閑作草  
晴窗細乳戲分茶  
素衣莫起風塵歎  
猶及清明可到家  

 

      *

 

 

臨安にて春雨初めて霽る     陸游

  世味 年來 紗よりも 薄し

誰か馬に騎して京華に客たらしむ
小樓 一夜 春雨を聽き
深巷 明朝 杏花を賣る

矮紙 斜行 閑に草を作し
晴窗 細乳 戲れに茶を分かつ

素衣 風塵の歎を起こすことなかれ 

猶ほ清明に及んで家に到るべければ

 

 

 

*陸游(1125-1210) 南宋の代表的詩人。范成大、尤袤、楊万里とともに南宋四大家の一人とされる。







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