2024年9月29日日曜日

剣菱

  

 

上野のたる松へはひさしぶりに寄ったが

いくつか飲んだ日本酒のうち

たる松用の特製の春鹿も甘くて旨かったが

剣菱は酒の体がつよくて旨かった

やや黄色みを帯びた剣菱は

口に含んだはじめのうちしばらくは

最近の酒によくあるようにはじめから個性的な尖った味を

気取ることはないが

しっかりした酒の肉質のようなものが

ほどなくわかってくる

高い高級酒などではないが

むかしから有名なだけのことはあると思わされた

小学生の頃に酒蓋集めが流行っていて

一升瓶の日本酒の蓋の丸いところを集めたが

剣菱のマークは異彩を放っていた

子どもは日本酒を飲んだりしないし

正月の宴席の時などにちょっと飲まされても

苦いようなウエッとなるような味で

まったく旨くは感じなかったが

かっこよかった剣菱のマークは気に入っていた

あのマークが守っていたのがこの味かと

雨がちだった一日の終わりの宵闇のなかに

口に残る味の記憶を反芻してみていた






0 件のコメント: