2024年9月26日木曜日

三日間



 

       此所では喜劇ばかり流行る。

              夏目漱石『虞美人草』



 

古い時代には

党派とか

党派的といったことばに

個人の自由が奪われてしまうような

それでいて

社会の改革のためにはそれを認めなければならないような

いやぁなジメつきが感じられ

わたしたちの世代は

そういうことばが棲息できるような域を

避けていったものである

 

党生活者

などと聞けば

小林多喜二の小説の題名から離れて

あたりまえのように

高度成長期以降の空間のそこ此処にもまだ

棲息しているのが

安宿の干されることのない布団の下の

南京虫の棲むジトッとした場所のイメージのように

日本と呼ばれる魔界のなかには感じられた

 

いまでも

ひとは平気でジミントーとか

リッケンミンシュトーとか

種痘のように

なにかの塔のように

口にしているが

それらの党員なるものが

わたしには

党生活者としか受けとめられない

党生活者のシンジロー同志!

党生活者のシンゾー同志!

などとしか

わたしの耳には響かない

 

党といえば

かつて

日本には奇跡的なものがひとつ

あった

片山潜や幸徳秋水らが呼びかけ人となった

社会民主党だ

 

1900年に治安警察法が制定された後

つかの間の示現のように

1901年に出現して消え去った党であった

 

彼らは518日土曜日に結党し

翌日の日曜日に結党届を出し

月曜日に解散命令を受けたが

それでも

たった三日間だけ

当時の大日本帝国支配の社会において

あまりに奇跡的過ぎる政党を存続させた

 

彼らが結党届提出とともに表明した「社会民主党宣言」は

基本綱領八ヵ条

実行綱領二八ヵ条を含むが

そこには当面の要求である実行綱領として

八時間労働制

団結権の保障

普通選挙権

貴族院の廃止

治安警察法の廃止などが

明示されていた

 

 



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