オリーブの木の大鉢は
薔薇の木々のむこう
ちょっと奥まったところにあるので
水を撒く時には壁に手をつけて
からだを支えながら
水のいっぱい入った重いジョウロをのばす
掌をつけるグレーの壁には
だいぶ前
ヤモリが留まっていたことがあった
ちょうど手をつけるあたりで
掌を宙で開きながら
壁に近づけていく途中で気づいた
ここに住み始めた頃のことで
オリーブは今より繁茂していた
あまりに伸び過ぎるので
鉢をどんどん大きく替えるのをやめ
そろそろ伸びないでくれよと
その後はつぶやいたりしている
今は170センチほどで止まってくれているが
三軒茶屋の植木屋で苗を買った時には
たしか30センチもなかった
どうせ大きくはならないと踏んで
屋根もないバルコニーに出しているうち
ぐんぐんと成長してしまった
このオリーブの木が成長していったあいだに
疾風怒濤…と大げさに言えば言えるぼくの
個にとっては複雑過ぎた生が過ぎていったが
それを間近に見知っていた人たちはもうほとんどいない
外から今見えるような人物としてだけぼくを見る他ない
薄いつき合いの人たちの目に半透明に映り続けていく
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