乗ったことのない路線のバスに
ちょっとした気まぐれから乗ろうとして
停留所で列を作っていたら
まだ小学校にも行っていないような女の子が
おかあさんと前にいて
あっちを見たり
こっちを見たり
列から離れてふらふら
戻っては
また離れてふらふら
遠視だろう
ぶ厚いメガネをかけて
まだ小さいのに
遠いような
ぼんやりしたような
さとったような表情をしている
顔立ちは
はっきりしていて
まだ小さいのに
もう中年になった頃の顔が見える
けっこうきれいな
落ち着いた人になりそうな
大人びた顔
こんな子がいたら
かわいいだろうなあと見ていると
おかあさんに
「ほら、もうバスが来るから
「ちゃんと並びなさい
と言われて
どうしてだかひどく腹を立てて
むこうのほうを向いて
しっかり坐り込み
両手でこぶしをつくって
目にぐりぐりし
し続け
そうして微動だにしなくなった
それがなんと
長いこと
長いこと
長いこと
といってもバスが来るまでのあいだだから
ものの十分ほどだけれど
こんな小さな子には
長い
長い
長い
ずいぶんな抵抗
おかあさんだって
きつく言ったわけでもないし
理不尽なことを言ったわけではないのに
なんと
長い
長い
長い
ずいぶんな抵抗
まだ小さいのに
こんな小さい子なのに
自我の
なんという大きさ
強情さ
これを抱えて
この子も生きていくんだね
と思いながら
自我さえ
もっと薄かったら
あるいは
もっとおちゃめだったら
もっと軽かったら
もっと段階調節ができたら
はるかに幸せだっただろうに
と思わされた
何人もの女たちを
走馬灯
というより
スマホのタイムラインを
高速でサァッと見るように
思い出していた
はるかに幸せだったろうに
はるかに幸せになれただろうに
彼女ら
あの女たち
0 件のコメント:
コメントを投稿