外見で人を判断しないのは愚か者だけである。
オスカー・ワイルド
紀子のしている腕時計は
フランスのカルティエのベニュワール*に近いかたちのものに見え
1949年の小津安二郎の『晩春』のヒロインの紀子である
今ならいろいろとこうした形の時計があるが
カルティエがはじめて作った形で
戦後のすぐの時期に
他のデザイナーや時計会社もこの形を作っていたかどうか
わたしにはよくわからない
ベニュワールは
現在でも
安いものでも100万円はする
もし紀子がこれを使っているとするならば
かなり余裕のある家だったということになる
いろいろ探してみると
ロンジンにも近い時計があり
現代でならハミルトンにもある
はたして1940年代に
どこのブランドが一番近いものを出していたか…
こうした品物や商品のひとつひとつにもこだわって調べていくのが
「映画を見る」ということであり
「小説を読む」ということだと思う
誰であれ
近現代の人間の生活は
品物や商品の集合のみで出来上がっているからだ
ベニュワールを腕につける女性と
Apple Watchを巻く女性と
セイコーのルキアや
シチズンのクロッシーや
カルチェのタンクを選ぶ女性とでは
そもそも生物種が異なる
無限に発生する
そうした精神種の間の差や
それら種の間に生まれる相剋を見るのが
フィクションというレンズである
*ベニュワール
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