しゃべったり
語ったり
書いたりしている
と他人から見え
じぶんでもそう思えている
時がある
そういう時
人は
つねに
「なにか」について
しゃべったり
語ったり
書いたりしている
「なにか」を
言語表出域においてのみ
浮き上がらせよう
として
単語や統辞法の奴隷となっていて
「なにか」について
しゃべったり
語ったり
書いたりする
ことの
奴隷となっている
たぶん
「『なにか』について」の奴隷とも
なっている
だろう
けれども
人は
その時同時に
じぶんが単語や統辞法の主人となっている
と
思い込んで
いる
し
思い込んで
いたい
どんなものであれ
ものを
よく使ったり
たくみに使いこなすのは
人が
いかに
そのものの主人となっている
と思い込みたくても
現実には
同時に
そのものの
完全な奴隷となっている
時に
限られる
しゃべったり
語ったり
書いたりしている
人の
あの脆弱さ
頼りなさ
はかなさ
は
ここから来る
なんども
思い出すべき
ハンプティ・ダンプティ
「《名誉》っていう言葉
あなたがどういう意味で使ってるのか、よくわからない」
とアリスが言った。
ハンプティ・ダンプティは
馬鹿にしたような笑いを顔に浮かべ
「もちろんわからないだろうな、わたしが説明しないかぎりはね
わたしはね
《こりゃもっともだ、と言って
おまえさんが降参するようなみごとな理由がある》
という意味で《名誉》と言ったんだよ!」
「でも、《名誉》という言葉に
《こりゃもっともだ、
なんて意味はないわ」
とアリスは言い返した。
「わたしが言葉を使うときはね」
とハンプティ・ダンプティはあざけるように言った。
「どの言葉も、
わたしが選んだ意味を持つようになるんだよ。
わたしが選んだのとぴったり同じ意味をね」
「問題は」
とアリスは言った。
「あなたがそんなふうに
言葉にいろんなものをいっぱいつめこむことができるのか
ということだわ」
「問題は」
とハンプティ・ダンプティが言った。
「わたしと言葉のうちの、どっちが主人になるかっていうこと
それだけだな」
困ってしまってアリスは何も言えなくなった。
しばらくしてから
ハンプティ・ダンプティが続けた。
「言葉っていうのはね、それぞれに気性があるものなんだ
あいつらのいくつか、特に動詞のやつとかは、
形容詞だったら
おまえさんにでも
なんとかなるかもしれない
けれど
動詞は無理だね
でも
わたしなら大丈夫
なんでも来いってもんだ!」
(ルイス・キャロル 『鏡の国のアリス』)
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