2025年3月24日月曜日

わたしはルドルフ・ヘスだ

 

 

 

『関心領域』という映画を見た

 

2023年の映画で

すごい映画だ

大事な映画だ

けっこう

宣伝されていた

 

アウシュビッツ強制収容所のすぐ隣で

所長を務めるルドルフ・ヘスと

その家族が

平穏に

満ち足りて

いかにも家族して

暮らしている

 

収容所からは

たぶん

射殺している音らしい

銃声が

年中

聞こえてきている

 

ときどき

叫び声も聞こえてくる

 

死体を焼く臭いも

風の向きによっては

ときどき

流れてくるらしく

訪ねてきた老母は

不快感を

覚えていたらしかった

 

殲滅収容所のわきで

平然と

所長一家が幸福そうに暮らしている

そこのコントラストで

衝撃を出そうとしている

そんな映画と

見えた

 

ところが

見終えてしまうまで

これといって

衝撃は受けなかった

ははぁ

これで衝撃を与えようとしているんだな

と見えすぎてしまい

衝撃は受けなかった

 

映画に没入して

一気に見てしまう時間はとれないので

少しずつ

夕食の時間に見るようにし

だんだんと見終えていったけれど

べつに

食べ物の味わいに差し支えるようなことは

なかった

消化に差し支えるようなことも

なかった

 

『関心領域』という映画は

繋がっているはずの

ごく近い空間への関心の徹底的欠如を

扱っているが

この映画を見ながらわたしが食べた

鶏肉や豚肉や魚が

生きていた時間にも

殺されていく瞬間の時間にも

ごく近くはなくとも

そう遠くなく

繋がっているはずなのに

しかも

それらの時間への関心を

徹底的に欠如しているわけでもないのに

平然と

鶏肉を豚肉を魚を

わたしは食べた

 

わたしもまた衝撃そのものだ

 

わたしはルドルフ・ヘスだ

 

 



 

*『関心領域(The Zone of Interest)』(ジョナサン・グレイザーJonathan Glazer監督、2023





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