あの家では
玄関を入ってすぐ右に
幼いわたしの部屋への入り口があった
戸は襖だった
襖を開けると
子供机の右側が見え
机の脇下にはプラスチックのゴミ箱があった
ゴミ箱は横から見ると菱形に近く
台形と台形の底辺をあわせたようなかたちだった
上半分が赤く
下半分は黒かった
ふたつの部分は途中が螺旋式になっていて
そこを回転させて接合したり離したりできた
このゴミ箱には
本を読む時など足を乗せたので
重みで接合部分がよく外れた
それをくり返すうちに接合部分が壊れていって
割れてしまい
捨てなければならなくなった
しかし
わたしは今
まだ真新しいあの家の玄関から入り
わたしの部屋の襖を開けて
やはり真新しいゴミ箱を目の前に見ている
見直している
このわたしのゴミ箱について
これまで一度も思ってみたことがなかったこと
まだ29歳前後だったはずのわたしの親が
このゴミ箱をどの店で
他のものと比べて
どのように選んで買うことにしたのか
そして
家までどう運んできたのか
そんなことに
今は激しい興味がわく
わたしの
生涯でのはじめてのゴミ箱だったというのに
一度も思ってもみなかった
これらのことについて
ゴミ箱の由来について
耐えきれなくなるほどに
せつなく
激しく
悔悟のように
今になってはじめて
興味がわく
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