2025年9月9日火曜日

わずか一分か二分ぐらいの間の一生

 

 

 

枕元では常時

三つの目覚まし時計を使っている

ふつうは

メインのものと

予備用のものとのふたつの使用で事足りる

 

メインの目覚まし時計の場合は

目覚ましアラームが鳴った後

上部のボタンを押すとアラーム音が止まる

しかし

上部のそのボタンには一時停止機能しかなく

そこを押した後にまた寝入ってしまうと

一分か二分ぐらいした後に

目覚ましアラームがふたたび鳴る

スヌーズ機能というらしい

完全にアラームを止めるには

裏面のスイッチを下げないといけない

 

この機能は

寝足りない気分の抜けない朝に効果を発揮するが

きょうも別の効果を発揮してくれた

 

目覚ましのアラームが鳴ったので

上部のスイッチを押してアラーム音を止めたが

すぐに起きられずに

また寝入ってしまった

 

そして

次のアラーム音が鳴り響くまで

ふたたび

かなり深く寝てしまったのだが

二度目のアラーム音が鳴ったので手を伸し

上部のボタンを押して

アラーム音を止めた

 

このスヌーズ機能のおかげで

わずか一分か二分のあいだに見た夢が

二度目に目覚めた後の記憶に残り続けたのだ

 

目覚めた後にふり返ると

夢の細部も流れのリアルさも急速に溶解していき

見ていた夢の分量に比して

記憶に残ったものはごくわずかだったが

それでも

全体像のだいたいの印象は残っていた

 

なんと

行ったこともない

まったく未知の外国のどこかで

幼少時からの一生分の人生を

わずか一分か二分ぐらいの間に生きていたのだ!

まだ死までは経験していなかったが

あんなに幼かった頃の自分が

こんなに老いの兆す年齢まで生きてきたとは

人生の時の流れのいかに早いことか!

などと

目覚ましアラームの鳴る直前の時点で

夢の自分が述懐していた

 

夢では

どんなことでも起こるのは

誰でも知っているし

経験している

 

しかし

わずか一分か二分ぐらいの間に

本当に一生分の生が展開されていく経験を確認できたのは

はじめてのことで

これはまさに

21世紀の目覚まし時計のスヌーズ機能のおかげである

 

誰でも購入できる

安価な

今世紀のスヌーズ機能付き目覚まし時計こそ

生と夢と死と時間と場の謎に分け入るに際して

なんとも

恐るべきかな!

畏るべきかな!

 






0 件のコメント: