チリの森を知らない者は、この惑星を知らない
パブロ・ネルーダ
パブロ・ネルーダ(Pablo Neruda)の
詩集『愛のソネット100』(Cien sonetos de amor, 1959)の
「昼(Mediodía)」の部の34番は
la espuma de tus sueños
(きみの夢々の泡)
と終わっていて
夢に関わる表現として
リアルに感覚に触れてくる
ちょっと稀な
印象鮮やかな
ものになっている
「きみの夢々の泡」というのは
「きみ」が見るいろいろな夢に出てくる
あれやこれやが
泡のように立ったり
膨らんだり
弾けたりする
という意味あいを
出しているのだろうが
夢見について表現するときに
こういうアプローチはあまり見かけないので
比喩の名手だったネルーダならではの
感覚的につかみやすい
わかりやすくも
ピンと来る達成といえる
この詩集は
ネルーダの“生涯の女”たる
マティルド・ウルティアに捧げられていて
小難しい言い方をしない
どこの国や地方のひとにも感覚的にわかりやすい
詩の基本中の基本をわきまえた
五感を全開させ直させられるような
ことばの並びになっている
いわゆる先進国の詩歌は
20世紀に入って
小難しく
重箱の隅をつつくような
物書きの楽屋落ちや
書くことやことばについての繰り言や
言語実験のなかへ引き籠もって行ってしまったが
チリのスペイン語詩人のネルーダは
外交官や政治家でもあったのが幸いしたのか
あるいは
地上の官能性への
生れ持っての敏感さのゆえか
みずみずしい果肉のようなことばを
保ち続けた
「どの言語の中であれ、20世紀の最高の詩人」
とネルーダを讃えたガルシア=マルケスは
ネルーダが1971年にノーベル文学賞を受賞した際
その自宅での夕食会に招かれて
ネルーダのこんな姿を目にしている
その夜
パブロの本当の関心はノーベル賞ではなく
買ったばかりの実物大のビロードのライオンを
友人たちに見せることのほうで
それが
すごくうれしそうだった。
部屋には剥製の馬があり
船首を飾っていた船首像があり
——海にすごくとりつかれていたのだ——
巻貝のコレクションがあった。
あいかわらず
彼は文無しだった。
古書の初版本などを買うために
お金は全部使い果たしてしまっていたから。
さて
「昼(Mediodía)」の部の
34番の詩の
全体は
こんなふう
Mediodía 34
Eres hija del mar y prima del orégano,
nadadora, tu cuerpo es de agua pura,
cocinera, tu sangre es tierra viva
y tus costumbres son floridas y terrestres.
Al agua van tus ojos y levantan las olas,
a la tierra tus manos y saltan las semillas,
en agua y tierra tienes propiedades profundas
que en ti se juntan como las leyes de la greda.
Náyade, corta tu cuerpo la turquesa
y luego resurrecto florece en la cocina
de tal modo que asumes cuanto existe
y al fin duermes rodeada por mis brazos que apartan
de la sombra sombría, para que tú descanses, legumbres,
algas, hierbas : la espuma de tus sueños.
(Pablo Neruda Cien sonetos de amor, 1959)
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