ふらんすへ行きたしと思へども
と朔太郎は書いたけれど
ふらんすへ
行きたいとなど
もう
思わないので
ぼくの旅は
はるかに
複雑
ぼくの
書くかもしれない詩は
はるかに
入りくんでくる
新しい背広を着ようとも思わないので
どこかへ
行くふりをするとなると
さあ
なにを着ていこうかと思案するが
きままなる旅にいでてみん
と朔太郎のように
呟いてみるのも
記してみるのも
わるくはない
わるくはないどころか
気持ちにあたたかく晴れ間ののぞくような
やわらかさ
うきうきさ
汽車が山に近づき
山あいを
谷の間近を行き
また
すこし離れて
遠い山なみの重なりまで
さまざまのことを
思い出すようにのぞむ時
みづいろの窓によりかかって
われひとりうれしきことをおもはむ
という
朔太郎の口吻を思い出しながら
ぼくもひとり
ぼくもひとり
ぼくに
ぼくにだけ
うれしいことを思おう
五月の朝のしののめ
うら若草のもえいづる心まかせに
うら若草のもえいづる心まかせに
と
ここはすっかり
朔太郎の
記した言葉を
借りてしまいながら
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