見慣れた紫色
ではない
赤い
ヒヤシンスが満開になって
鼻をよせると
さわやかで
甘さも
ある
よい香りがする
鉢植えなので
鉢ごと顔に近づけて
たっぷりと
嗅ぐ
花の色の赤さから
という
わけでもないが
紅旗征戎吾が事に非ず*
と
ふと
思い出す
読み終えないまま
十年以上も放り出していた
スタニスワフ・レムの『ソラリス』を
気まぐれから
早春
読み直しはじめる
ポケットに入れておいて
エレベーターの中や
信号待ちで
ほんの少しずつ
数行ほどや
せいぜい1ページ程度
読み進める
レムの生地は
現ウクライナのリヴィウ
ザッヘル・マゾッホも
ここの
出身だったりする
黒海とバルト海をむすぶ交易路の
重要な中継地のリヴィウは
17世紀にはスゥエーデンやオスマン帝国や
ウクライナ・コサックに襲撃され続け
18世紀にはオーストリア帝国に取られ
20世紀にはいったんロシア軍に占領され
またオーストリア・ハンガリー帝国に奪還され
その後西ウクライナとして独立したかと思うと
ポーランド住民が蜂起したことから
ポーランド・ウクライナ戦争になって
ついにはポーランドに奪われることになり
今度はポーランド・ソヴィエト戦争で
取られたり奪い返されたりし
第二次大戦ではいったんドイツに占領され
その後ソヴィエトに引き渡され
ふたたび独ソ戦でナチス・ドイツに占領され直し
戦後はソヴィエトになるものの
ウクライナ文化の中核地となって
ロシア文化に抵抗する牙城となった
そうな
なんとまぁ
忙しい
地
こんな
リヴィウの歴史を
ちょっとでも
ふり返ると
『ソラリス』のなかの
「じゃあきみは誰なんだい?」**
というセリフや
「ただ、ひょっとしたら聞いたことがないかな、
かつて神は神でも・・・・・・
欠陥を持った神を崇める信仰があったというようなことを?」**
というセリフが
急に血肉を備えてきて
体感として
わかる
気に
なってくる
「じゃあきみは誰なんだい?」
とは
いい言葉
ずいぶん鋭い
問い
そうして
紅旗征戎吾が事に非ず
日本には
この言葉が
ある
*紅旗征戎非吾事 (藤原定家 『明月記』)
**スタニスワフ・レム『ソラリス』(沼野充義訳)、「
***スタニスワフ・レム『ソラリス』(沼野充義訳)、「
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